アントニオ・カルロス・ジョビンの初のアメリカ盤アルバムには、後にスタンダードとなる12曲が収められ、彼の卓越した作曲センスが光る。練習不足にもかかわらず、ジョビンはピアノを最小限の単音と時折の和音で奏で、ジャズの即興的な味わいを加えた長くうねるメロディを、見事な抑制力で紡いでいる。クラウス・オガーマンの編曲には、後にクレッド・テイラーとの共同作業で特徴となる要素――高らかに響くフルートソロ、控えめなユニゾンの弦楽が豊かなハーモニーに広がる様子、ジョビンのピアノ和音を精緻に重ねるフルートなど――が早くも現れている。「デサフィナード」「コルコバード」「シェガ・ジ・サウダージ」「イパネマの娘」「メディテーション」「ワン・ノート・サンバ」といった名曲が収録され、『The Man From Ipanema』セットにも登場するこのアルバムは、ボサノヴァの決定盤と呼ぶにふさわしい傑作である。