ジョン・ウェズリー・ハーディングはカントリーのテクスチャーと構造を暗示していたが、ナッシュヴィル・スカイラインはスティールギターと簡潔で直截な曲を備えた本格的なカントリーアルバムだった。ボブ・ディランのそれまでにない優しいクローン（歌声）で歌われており、特に温かみと親しみやすいアルバムだ。彼の声の響きはあまりに異なるため、初めて聴いたときには驚くかもしれないが、曲には見事にマッチしている。軽めの曲もいくつか収録されているが、中核には「レイ・レディ・レイ」「トゥ・ビー・アローン・ウィズ・ユー」「アイ・スルー・イット・オール・アウェイ」「トゥナイト・アイル・ビー・ステイイング・ヒア・ウィズ・ユー」、そしてジョニー・キャッシュとのデュエット「ガール・フロム・ザ・ノース・カントリー」など、カントリーロックのスタンダードとなった優れた曲が並んでいる。1969年春にリリースされたナッシュヴィル・スカイラインは、カントリーロックをポップミュージックにおける重要な勢力として、また商業的に成立するジャンルとして確立した功績は計り知れない。