アメリカのセルフタイトル・デビューアルバム（1972年）は、イーグルスやダン・フォーゲルバーグらに影響を与えたフォーク・ポップの名盤である。クロスビー、スティルス＆ナッシュの影響が色濃く、豊かなボーカル・ハーモニーとストラム奏法のアコースティック・ギター編曲に表れている。「サンドマン」や「チルドレン」ではCS&N風のコード・シンギングが、「リバーサイド」ではダイナミックなギター・ワークが聴かれる。アメリカのアコースティック・ギターの絡みは影響元より複雑だが、時折雑な演奏やチューニングの問題も見られる。アルバムには「ドンキー・ジョー」（イントロ）、「ヒア」（間奏）、「クラリス」（終曲）といった長めのインストゥルメンタル・パートが収録されている。斬新なコード進行が曲を引き立てつつも主張しすぎない。歌詞は陳腐だったり難解だったりするが、音楽性がそれを補っており、唯一「ピジョン・ソング」だけが弱い。包み込むような親密な音質が幽霊めいた雰囲気を醸す。ヒット曲「ホース・ウィズ・ノー・ネーム」「アイ・ニード・ユー」「サンドマン」に加え、「スリー・ローゼズ」や「レイニー・デイ」などの隠れた名曲も収録。些細な欠点はあるものの、フォーク・ポップの礎として強く推薦できる作品である。