ボブ・ディランは、『ジョン・ウェズリー・ハーディング』で亡命から帰還し、これまでの3作品とは劇的に異なる静かでカントリー色を帯びたアルバムを発表した。穏やかで内省的な『ジョン・ウェズリー・ハーディング』は、ディランのロックアルバムの荒々しい傾向をすべて取り払い、前年に制作された当時未発表の『地下室のテープ』さえも超えるが、フォークのルーツへの回帰ではない。むしろ、このアルバムは彼の初めての本格的なカントリーへの進出であり、「アイ・ビー・ユア・ベイビー・トゥナイト」のような数曲は純粋なカントリーソングだが、それだけではない。『ジョン・ウェズリー・ハーディング』はカントリーの素朴なサウンドと多くの田舎の神話に影響を受け、「オール・アロング・ザ・ウォッチタワー」「アイ・ドリームド・アイ・ソー・セント・オーガスティン」「ザ・ウィケッド・メッセンジャー」のような一見単純な曲も、繰り返し聴くことで複数の意味の層を明らかにする。歌詞は幾分謎めいているが、音楽はシンプルで直接的でメロディアスであり、1960年代後半にロックを席巻したカントリーロック革命の礎となった。