約10年ぶりに発表したオリジナル曲のLP——そして2016年にノーベル賞受賞を渋々受け入れて以来初の作品——で、ボブ・ディランは長い時間を振り返る。『Rough and Rowdy Ways』はアメリカン・サウンドと歴史的記憶に浸る湯船のような作品だ。79歳のシンガーソングライターは、私たちがどこから来て、どうやってここにたどり着き、そして自分に残された時間がどれほどあるのかを思索する。気まぐれなブルース（「False Prophet」「Crossing the Rubicon」）や優しい賛美歌（「I’ve Made Up My Mind to Give Myself to You」）、陽気な別れの歌（「Goodbye Jimmy Reed」）、そして死神との熱い対話（「Black Rider」）が並ぶ。自伝のように読めるが、彼がフィクションだと主張するのは必定だろう。しかし、パンデミックと1960年代を彷彿とさせる社会的動乱の只中にあたる2020年6月にリリースされたタイミングか、あるいは彼の年齢ゆえか、ディランの言葉のひとつひとつには、最後の言葉のような、解読し保存すべき古代の知恵のような、特別な重みが宿っている。「Mother of Muses」ではエルヴィスやキング牧師に言及し、「私はすでに寿命をはるかに超えて生き延びた」と宣言する。16分に及ぶ傑作シングル「Murder Most Foul」では、JFK暗殺——大統領の死、象徴の死、時代の終わり、そして定義しがたい何か——をナスカの地上絵のように描き出す。だが最も長く心に残るのは「Key West (Philosopher Pirate)」だ。アコーディオンとエレキギターが静かな水面の光のように溶け合う9分超の楽曲で、ディランはアウトローの男が米国国道1号線の終点——道の果て——へ向かう途中、ラジオのチャンネルを切り替える物語を語る。「キーウェストは、自分の死を探しているなら行くべき場所だ」と彼は唸り声から甘い声へと移ろいながら歌う。「キーウェストは神聖なる楽園だ」

アルバムのタイトルとは即座に対照的なオープニング曲「I Contain Multitudes」では、ディランがレナード・コーエンのスタイルを完璧に再現。冬のライオンのように、映画的なギターの上で一見穏やかながら重々しく唸り、ウィリアム・ブレイク、アンネ・フランク、インディ・ジョーンズ、そして「あのイギリスの不良少年たちローリング・ストーンズ」に敬意を表している。79歳の彼の最後の抵抗だとしたら、それは実に素晴らしいものだ。しかし彼はすぐさま「False Prophet」で活気ある姿を見せる。飾り気のないダーティなブルース行進曲だ。見どころはたくさんある。「My Own Version of You」は、影のようなギターのうごめきに乗せた「フランケンシュタイン」の物語で、思わず笑ってしまう。うっとりとする「I’ve Made Up My Mind to Give Myself to You」はドゥーワップ・バラードの影響を受けた曲だ。「神々が私を優しく扱ってくれることを願う」とディランはこの曲で囁く。彼が総括をしているような感覚を拭い去るのは難しい。しかし、まだ語るべきことはたくさん残っている。「Key West (Philosopher’s Pilot)」では、この大御所がルート1に沿って不死を追い求め、9分半の完全に楽しめる時間を過ごす。そしてクロージング曲「Murder Most Foul」は17分近くにわたって展開され、ケネディ大統領暗殺を追体験し、電話帳ほどの文化的な引用を一瞬も無駄にせずに呪文のように紡ぎ出す。―シェリー・リデンノア